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午後6時45分出勤する。外はすっかり日が沈んでいる中、施設のホール(食堂)は煌々と蛍光灯がついている。いつもは節電のため全照明の3分の1しかつけていないのだが、今日はなぜか全ての蛍光灯がついていて、まだ建てて2年しか経っていない最新鋭の施設本来の美しさを取り戻している。
「お疲れ様です、ホーム長。照明、少し減らしますね」
出勤の挨拶をかねて私は言った。
「あ、井森さん、今日はまだつけといて。今ケアマネさんと入居の検討されてるご家族の方が見学に来てるから」
今ちょうど入居棟の2階を見学して廻っているところだそうだ。 《そうだよね、照明をけちって、なんか暗いイメージを抱かれて、入居契約をしてくれなかったら大損だものね》 と私は思った。
その時ホールに隣接するトイレのドアが半分開いて、介護福祉士の斉藤美恵介護員が顔だけ出して叫んだ。
「ねえー、誰か、洗面所のニベアクリーム持ってきてえー!」
私は 《あ、摘便(てきべん)だな》 と思った。「摘便」とは大便の自力排出がむずかしい方の肛門に指を入れて便をほじくり出す作業の事を言う。肛門に指を入れる際に、滑りが良いようにワセリンなどの潤滑性のあるものを使う場合があるのだが、斉藤介護員の場合は昔からある、家庭用ハンドクリームの「ニベアクリーム」がお気に入りらしい。
「ねえ、早くうー」
逼迫した斉藤介護員の声がホールに響きわたる。入居者の平田容子さんの姿が見えないところから、恐らく今回も彼女が斉藤介護員の摘便処置を受けているのであろう。しかしながら斉藤介護員は看護師ではないので、今見学に来ている部外のケアマネージャーにはちょっと知られたくないシーンだ。(摘便は医療行為とされ、看護師や医師以外はやってはいけないという論議がこの業界にはある)
それにしても持って行った徳用缶入りのニベアクリーム、私がいつも仮眠前に顔や手に塗っているものなんだよね。肛門ほじりながらその指をニベアクリームの缶に入れていたの?今までずっと?・・・やめてよね、全く。
そうしているうちに2階にいたはずのケアマネージャーがホールへと降りてきた。 つづく