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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 犬山昭子さん、あなた、今日は私に対してずい分とひどい事を言ってくれましたね。

 午前7時半、それは稲垣清さんの食事介助をしている時だった。
隣に座っていた犬山さんが食事を終えて立ち上がりざま言った、
「あん? あんた、ちょっと、薄らハゲかい!?」
薄くなってきている私の頭頂部を見下ろして言った。さらに、
「今からハゲてどうすんの! なんでそんなにハゲたのさ?」
「いいよ、もうすぐ50歳になるんだから」と私。
立ち上がっていた犬山さんは、座りなおして、畳み掛けるように言ってくる。
「なぬ言ってんのぉ、あちしの息子と似たような年して、息子なんて、まだフッサフサすてんだから」
さらに、
「ええかい、頭洗った後、ハゲてる所さ"髪の元"つけて、よ~く揉むの。それ、いっつもやってごらん!」
「そんな物で効くんなら、誰も苦労しないよ」と私。
「そんな頭してたら、嫁さんも子供も逃げてくべさ!」
「いいから、もう」 私の声はだんだんと小さくなっていった。
「みったくないって!(醜いの意味) 何とかしないばだめだあ~、そのまんまなら人相悪くてだめだあ~」
限界だ、もう10分程ずっと言われっぱなしだ。
「ほんと、もういいから・・」私はつぶやいた後、黙りこくった。
犬山さんは私の顔と頭をじっと見比べて、無言で立ち上がると、居室へと戻って行った。

 ここまで正面切って、執拗に言われたのは初めてだ。以前から他の事でも言葉のきつい犬山さんだが、お年寄りだと思って腹も立たなかったのだが・・。今日は笑って受け流せる限界を超えていた。 薄くなってきた頭頂部に、最近やっと「まあ、いいや」と思えるようになってきた私だったのに、今日の出来事はトラウマとして残りそうだ。

 

 

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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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