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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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  「井森さん、ちょっといいかい?」
厳しい表情で森ホーム長が私を事務室に呼び入れた。

応接セットに私を座らせてからホーム長は言った。

「実はね、井森さん、2階の
佐山敏子さんが君に覗かれてるって言うんだよ。
「えっ・・?ええぇ~!」と私。
佐山さんといえば、大柄で身のこなしの良い、非常にしっかりした感じの70歳前後の女性だ。ホーム長は続けた。
「夜にね、君が外から窓を少し開けて自分に電気を流してるって言うんだ。」
「あっぇ、・・えっえ~!」 とまた私。さらにホーム長は、
「もちろん君がそんな事をしてるとは思ってないよ、それに佐山さんのご家族からも以前に、母は妄想が出ることがある、と聞いてはいたんだ。」 少し間をおいてホーム長は、
「そこで君に頼みがあるんだけど、私も同席するから、佐山さんに謝罪してくれないか。いや、形だけでいいんだ、妄想は否定すればするほど悪化するそうなんだ。」


  翌々日、私はホーム長を伴って、佐山さんの部屋で謝罪をした。

「佐山さん、すみません、悪気はないんです。どうかかんべんしてください、お願いします。」
小さなちゃぶ台を挟んで、私は深々と頭を下げた。ホーム長も、
「井森君もこう言ってます、ねえ佐山さん、どうかかんべんしてやってくれませんか。」
これに対して、佐山さんは驚くべきことを言った。
「ホーム長さん、そうおっしゃっても、あなただって時々天井から覗いたり、電気を流したりしてるじゃぁないですか。」
これには私もホーム長もあんぐりと口を開けた。

 1ヶ月後、佐山さんはこの老人ホームを退去した。本人の強い希望で、どこかよその老人ホームに移るらしい。
最後の日、ご家族の方が、ホーム長にしきりに詫びていたと聞いている。

 

 

 
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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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