老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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午後8時40分、小杉勘助さんが食堂のテレビをかぶりつきで見ている。テレビのまん前に立って、覗き込むように画面を見下ろしている。
何を見ているのかと思えば、某人気番組の料理コーナーであった。格好良く盛られた鯖の煮付けが、うまそうに湯気を立ててアップで映っている。
普段私が、午後10時、11時と事務仕事をしていると、よく寄ってきては、「腹ぁへったなあぁ」とか「朝飯、早く食いてえなぁ」などと話しかけてくる。
私が仮眠に入ってからは、食堂の冷蔵庫を開けて、こっそりと中を物色している事もよくあるようだが、あいにくこの冷蔵庫、徘徊老人対策で夜間は何も入っていないのだ。
もう、83歳になる小杉さんなので、好きな時に好きなものを食べて、往生させてあげたいとも思うのだが、なにせ糖尿病で食事制限をしている身であり、私が何かこっそり食べさせてあげるにしても、ちょっと度胸がいる。
テレビの鯖をかぶりつきで見ている、その小さく丸っこい背中が可哀想でならない。
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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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