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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 午前9時、勤務を終え自宅に戻る。家に入りすぐにシャワーを浴びた。浴室から出てテレビを見ていると妻が言った。

「この服、便とか付いてるの?」

眉間にしわを寄せながら私の脱いだジャージーを指さしている。私が帰ってきて急いでシャワーを浴びたものだから、そう思ったのだろう。私はそれには答えず、

「いいよ、自分で洗うから」と返した。
「バケツか何かで洗ってね」と妻。

今朝のオムツ交換時に、オムツ内から大便をつかみ出した入居者と抱き合うような形になったものだから、微量でも当然便は付いているだろう。話は違うが、この仕事を始めて少し経った頃から妻とは寝室が別になった。私の仕事の内容が原因かどうかは判らないが、妻からの申し出である。
  ここ数年、まるで薄暗いへ地下道をたった一人歩いている、そんな感じの心細い毎日だ。心細いと言うよりは絶望と言ったほうが近いのか。どこまで続くのか分からないし、その道はある日突然行き止まりになっているのかも知れない。分かっているのは最近、行く道がだんだんと狭く、暗くなってきているということだ。この道に入り込んでしまう前の明るい時代の事を時折思い出す・・そう、可愛かった妻や子供そして何より自信に満ち満ちていた自分。それから前の会社や同僚達、ああ、彼らは日本全国にあまたある支社、支店などで管理職として采配をふるっている事だろう。プレスの効いたスーツを着て、部下に檄を飛ばす姿が目に浮かぶ。ジャージを着て、エプロンして、ひざまずいて他人様の股間を清拭する私の今の姿を知ったら彼らは何て言うかな。

「はは、井森、お前ずい分いい仕事してるな。今度うちの婆さまのオムツも取っ替えてもらおうかな、お前呼んでさ、はは」・・・。

  私は今年でもう49歳になる。何とかしてこの低所得で惨めな状態から抜け出したい。子供達に自分の仕事を胸を張って説明できるようになりたい。先に自分自身が納得しなきゃダメだよな・・多分、無理だろうけど。


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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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