老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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《ああ、また今夜もか・・・》
今は午前2時、毎晩続く強烈な徘徊に私はうんざりしていた。今夜の徘徊リーダーは84歳になる室田鉄二さんだ。リーダーを先頭に、稲垣さん、小杉さんと続く。室田さんは小柄だが、厚い胸板と踏ん張りの効きそうな足腰で毎夜迫力のある徘徊を展開している。今夜のように徘徊に勢いがついてくると、何度ベッドまで誘導して寝かせても、瞬く間に起きてくる。殺しても殺しても立ち上がってくる、まるでゾンビ映画のようだ。無駄な事がわかっているので、最近は無理に寝かしつけたりはしない。もう、完全に放任、いや放置だ。ただ、怪我などの事故が起きない様、夜の施設内はさまざまな配慮がなされてはいる。
私は食堂の仮眠スペースで寝たふりを決め込んでいた。徘徊の物音がうるさくて、とても寝てなんかいられないのだが、起きていると周りを取り囲まれて、うっとうしくてしょうがないのだ。
布団をかぶって見つからないようにしていた私だが、誰かが近寄ってくる足音を感じた。布団をちょっと下げて見てみると室田さんだ。《ああ、見つかるぅ~!》
思ったとおり、室田さんが私の布団を物凄い勢いで剥いだ。
「おい、コラァ! 飯食わせや!」
室田さんの禿げ上がった頭と吊り上った目が相まって、薄明かりのなか恐ろしい表情になっている。
こうなったら、何をしても収まらない、私は逃げた。逃げて調理室に飛び込んでドアを閉めた。このドアには鍵がついていないので、手でドアをしっかりと引く。
「コノヤロー、開けろコラ、飯食わせや!」
すごい力でドアを押してくる。まさにゾンビ映画のワンシーンだ。
しばらく耐えていると急に静かになった。そぉーっとドアを開けると今度は遠くで怒声が聞こえる。入居棟の方だ。走って入居棟へ向かう、1階の八田いしさんの居室のドアが開いている。八田さんは84歳になる、頭のしっかりした女性だ。そして中からまた怒声。
「飯出せ、コノヤロー!」
八田さんがベッドの上に半身を起こして凍り付いている。その前には八田さんの掛け布団を両手で掴んで仁王立ちの室田さんがいる。私は頭にカーっと血が上るのを感じた。心の中で何かが弾けた。
「むろたあぁー、!ちょっとこっち出ろー!」
私は室田さんの襟首を掴んで強引に廊下に引っ張り出した。室田さんも黙っていない、
「何すんだコノヤロ、勝二呼ぶぞ!」(勝二とは息子さんの名前)
「おぉ、呼ぶんなら呼べえぇ!」と私。
揉み合いながら、50メートル程離れた食堂横の室田さんの寝室へ連れてゆく。こうなったらもう、拘束だ何だと言ってられない、やらなければやられる。室田さんは体格どおりの凄い力で暴れている。何とか寝室へと押し込んですぐドアを閉める。中での暴れ方も半端ではない、体当たりしながらドアを開けようとする。
「開けろ、コラー!」
ここで開けたらまた大変な事になる。まるで手負いの獣だ。懸命の思いでドアを押さえる。10分、20分、30分経ち、ようやっと静かになってきた。そう思ってドアを押さえる力を緩めた・・そのとたん、
「ウォラア~!」
ドアを半分開けられたところで何とか押さえた。半分開いたドアを向こうとこっちで引き合う。
「出せコノヤロー! 勝二呼ぶぞ!」
繰り返しの攻防が果てしなく続いた。
精も根も尽き果ててきた朝の5時、急に物音がしなくなる。食堂の窓の外から朝日が薄っすらと差し込んで来ている。ドキドキしながら少しドアを開けて中を覗くと、ベッドの上でいびきをかいて眠っている室田さんが居た。
「憑いていた悪霊が・・・落ちた」
室田さんの眠ってる姿を見て、私はドアの前で尻餅をついた。腰が抜けた感じだ。力を込めていた腕や肩がこわばっている。ほぐすように首を回す。
「長い・・・、長かった、今までで一番長い夜だった」
しばらく放心した後、私は朝食準備のために調理室へと向かった。
「おい、コラァ! 飯食わせや!」
室田さんの禿げ上がった頭と吊り上った目が相まって、薄明かりのなか恐ろしい表情になっている。
こうなったら、何をしても収まらない、私は逃げた。逃げて調理室に飛び込んでドアを閉めた。このドアには鍵がついていないので、手でドアをしっかりと引く。
「コノヤロー、開けろコラ、飯食わせや!」
すごい力でドアを押してくる。まさにゾンビ映画のワンシーンだ。
しばらく耐えていると急に静かになった。そぉーっとドアを開けると今度は遠くで怒声が聞こえる。入居棟の方だ。走って入居棟へ向かう、1階の八田いしさんの居室のドアが開いている。八田さんは84歳になる、頭のしっかりした女性だ。そして中からまた怒声。
「飯出せ、コノヤロー!」
八田さんがベッドの上に半身を起こして凍り付いている。その前には八田さんの掛け布団を両手で掴んで仁王立ちの室田さんがいる。私は頭にカーっと血が上るのを感じた。心の中で何かが弾けた。
「むろたあぁー、!ちょっとこっち出ろー!」
私は室田さんの襟首を掴んで強引に廊下に引っ張り出した。室田さんも黙っていない、
「何すんだコノヤロ、勝二呼ぶぞ!」(勝二とは息子さんの名前)
「おぉ、呼ぶんなら呼べえぇ!」と私。
揉み合いながら、50メートル程離れた食堂横の室田さんの寝室へ連れてゆく。こうなったらもう、拘束だ何だと言ってられない、やらなければやられる。室田さんは体格どおりの凄い力で暴れている。何とか寝室へと押し込んですぐドアを閉める。中での暴れ方も半端ではない、体当たりしながらドアを開けようとする。
「開けろ、コラー!」
ここで開けたらまた大変な事になる。まるで手負いの獣だ。懸命の思いでドアを押さえる。10分、20分、30分経ち、ようやっと静かになってきた。そう思ってドアを押さえる力を緩めた・・そのとたん、
「ウォラア~!」
ドアを半分開けられたところで何とか押さえた。半分開いたドアを向こうとこっちで引き合う。
「出せコノヤロー! 勝二呼ぶぞ!」
繰り返しの攻防が果てしなく続いた。
精も根も尽き果ててきた朝の5時、急に物音がしなくなる。食堂の窓の外から朝日が薄っすらと差し込んで来ている。ドキドキしながら少しドアを開けて中を覗くと、ベッドの上でいびきをかいて眠っている室田さんが居た。
「憑いていた悪霊が・・・落ちた」
室田さんの眠ってる姿を見て、私はドアの前で尻餅をついた。腰が抜けた感じだ。力を込めていた腕や肩がこわばっている。ほぐすように首を回す。
「長い・・・、長かった、今までで一番長い夜だった」
しばらく放心した後、私は朝食準備のために調理室へと向かった。
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得難い人材
なんとなく思ってたことが的中したような。
やっぱり、好きで自ら志願する情熱の人よりも、よんどころない事情で仕方なくやってる人のほうが、バランス感覚がまともなんだと思えました。
いつかこの経験や文章が出版されたら、また新たな出発ですね。お体、だいじに頑張ってください。
やっぱり、好きで自ら志願する情熱の人よりも、よんどころない事情で仕方なくやってる人のほうが、バランス感覚がまともなんだと思えました。
いつかこの経験や文章が出版されたら、また新たな出発ですね。お体、だいじに頑張ってください。
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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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