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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 稲垣清さんは認知症の重い、84歳の男性だ。心はもう、別の世界へ行ってしまっているせいか、時々、遠くを見つめるように微笑んでいるのがやや不気味だ。
その稲垣さんは、最近、ブラインドをイタズラする癖がついてしまった。いつの間にか窓際へ寄って行っては、ブラインドのフ
ィンの一つひとつをプチプチと細かく折り曲げるのだ。まるで内職でもしているかのように、静かに、根気よくやる。
ホーム長も最近そろそろ、堪忍袋が一杯になりつつあるようで、午後7時に出勤してきた私に、
「井森さん、稲垣さんの例のプチプチ、見たらやめさせてね!」
念を押して帰って行った。

 午後10時、入居棟へ見廻りに行って食堂へ戻ると、寝かしつけたはずの稲垣さんが起きて来て、プチプチやっている。
 
 プチプチ、プチプチ、プチプチプチ・・・。

私は急いで稲垣さんに近づいた。
「さ、稲垣さん、そろそろ寝ましょうか」
稲垣さんは振り向いて、笑顔で
「はい。」
と言ったが、すぐにブラインドに向き直って

 プチプチ、プチプチ、プチプチプチ・・・。

私は力ずくで稲垣さんの背中を押して、ベッドに寝かせた。
半年前に新調したブラインドはちょっと可哀想な状況になっている。
私はホーム長の不機嫌な顔を想像しながら、仮眠に入った。

 すると30分もしないうちにまた、

プチプチ、プチプチプチ・・

ああ、またか・・
この日、昼の仕事の疲れのせいかひどく眠かった私は、止めに入るのがすっかり面倒になってしまった。
「お言葉ですがホーム長、24時間監視は無理ですよぉー。」
ホーム長への言い訳を考えながら、私は布団をかぶった。

 


 

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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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