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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 午後8時、2階の入居者の佐藤タエさんが食堂まで降りてきた。佐藤さんは小柄な80歳くらいのちょっと気取った話し方をする女性だ。
「ねえ、ちょっと聞いていただけます?私の部屋の壁の向こうから人の話し声がするの。何か私のことを噂してるみたいなの」
佐藤さんからの相談事はこれが初めてではないので、またか、と思いながらも、
「そうですか、わかりました、一緒に行ってみましょう」
と言ってついていく。

 部屋の中に一緒に入り、
「佐藤さん、今も聞こえますか?」
「しっ!大きな声出さないで!相手に気付かれるでしょう!!・・・今は聞こえないわ、その窓の向こうから聞こえたの」
私がカーテンを開けて外を確認しようとすると、
「やめて頂戴、相手に気付かれたらどうするの!」
私はその言葉を無視してカーテンを開けた。
「佐藤さん、ご覧の通り窓の外は何もありません。ここは2階ですし、窓のすぐ下は食堂の屋根です。道路までかなりの距離があります、人が近寄ってこれるようなところではありません」
「あのね、そちらの壁の方からも声が聞こえたわ」
私は部屋から出て佐藤さんを手招きした。
「佐藤さん、声がしたという壁の向こうはご覧のように空き部屋です」
私は隣の部屋のドアを開け、さらに続けた。
「佐藤さん、ここ空き部屋ですよ、見てください」
私はちょっとムキになって、佐藤さんを手招きして隣の部屋の中を見せようとするのだが、佐藤さんは
「やめて!やめて頂戴!大変なことになる、気付かれる!」
 いくら説明してもダメだと思ったので、佐藤さんの部屋に戻って私はこう言った。
「ああ、そういえばさっき、若い男女が外で話をしているのを見ました。今度発見したら、きつく注意しておきましょう、ですから今夜は安心して寝てください」
佐藤さんは「わかったわ、よろしくお願いしますね。」と言って安心したようだ。
 
 佐藤さんとはいつもこんな感じだ。佐藤さんの言うことを終止否定しても納得してくれない。半分または全面的に肯定して安心してもらうのだ。
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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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