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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 午前2時、怒声で目が覚める。どうやら室田鉄二さんと小杉勘助さんがもめているらしい。室田さんは認知症がすすんで、人との会話が8割がた成立せず、杉田さんも耳がひどく遠いので、これまた会話が成り立ちずらい。その二人が口げんかになっているのだから、認知症とはわからないものである。
 薄暗い廊下の中を2人に近づいていった私は、「あっ!」と声を出した。
なんと室田さんが全裸なのだ。小柄だがガッチリとした体形が薄明かりに浮かび上がっている。

「室田さん!それどうしたんですか!?」と私。
「どうしたって、なにがだよ!?」と室田さんは語気が荒い。この異様な光景を自身では全く認識し得ないでいる。
「室田さん、裸ですよ、ハ・ダ・カ 。・・寒くないんですか?」と言って、私は室田さんの出っ張っている腹を、ぐるぐる撫で回した。室田さんは自分の腹を覗き込んで、ハッ!としたらしく、
「おお、寒い!」と言って自分自身の両肩を抱くポーズ。

 室田さんの服は共用トイレの便器の中で見つかった。むろん、何者かが引き剥がして捨てた訳ではない、自分で脱いで入れたのだ。なぜかって?そりゃ何か理由はあるんだろうけど、認知症老人の思考回路は複雑でいちいち詮索などしない。ジャージ上下、肌着、靴下、おまけに誰かがその後に小用を足したらしく、室田さんの着衣は惨憺たる状況であった。水を流していたら詰まっていたかも知れない。
 全自動洗濯機とは便利なものだ、回収した室田さんの着衣を洗濯機に放り込んで、布団にもぐりこむ。こんなことが日常茶飯事のこの館、私と痴呆老人の宴はまだ続く。


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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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