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老人ホームの夜勤専門要員として、たった一人雇われた私(男46歳)。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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 午後7時、私が出勤すると黒川美恵子さんがショートステイで来ていた。ショートステイとは、例えば1泊2日や3泊4日あるいは1週間などと短期間のお泊まりを指す、いわゆる業界用語だ。入居するわけではないのだが、切れ目なくショートステイがあるということは、ホームにとって貴重な収入となる。
鶏は物事を覚えても、3歩あるくと忘れるというが、黒川さんもそれに近いものがある。この夜は「風呂に入りたい攻撃」から始まった。最初は食堂で座ってテレビを見ていた黒川さんだが、私のところへやってきて、

「すみません、お風呂に入りたいんです。お風呂はどこですか」
と聞く。
「お風呂はもう今日は終わり、明日の昼過ぎにはいれますよ」
と私が言うと
「ああ、そうなの」
と残念そうな顔してまたテレビを見る。が5分もするとまたやってきて、
「すみません、お風呂に入りたいんです。お風呂はどこですか」
となる。
また5分後に・・・ということを5回くらい繰り返す。この頃になると、最初は丁寧に応対していた私も、さすがに、ちょっと切れぎみになってきて、
「黒川さん、これで6回目なんだけど大丈夫?」
と言ったりする。黒川さんは
「あれ、そうでしたか?」
ちょっと前に聞きに来たことを、すっかり忘れているのだ。
こんなことをひと晩中続けられては、こちらの方が参ってしまうと思い、
「黒川さん、薬飲んで寝ましょう。」
 家族から預かっている精神安定剤を飲んで食堂のとなりの寝室で寝てもらうのだが、5分もしないうちにまた起きて来て

「すみません、時計がないんです。明日の朝寝過ごしたらどうしましょう、困りました」
これも、
「朝はちゃんと起こしますから」
といって寝てもらうのだが、また5分もしないうちに起きてくる、その繰り返しだ。

 こんなことを3時間くらい続けて、こちらも疲れ果ててきた頃に本人も疲れてくるのか、あるいは精神安定剤が効いたのか、やっと寝てくれるのだ。
 
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★ プロフィール
HN:
井森 勝男
年齢:
64
性別:
男性
誕生日:
1960/05/05
職業:
夜間専門の介護職員
自己紹介:
某著名企業の総合職であったがほんの些細なことから退職、現在は年収150万で老人ホームの介護職員(夜間専門のパートタイマー)として働いている。認知症老人たちと私の、夜ごと繰り返される狂乱の宴。仕事でなければ決して近寄りたくないこの現実。介護する側、される側の悲哀。きれいごとの通用しないこの館で、今夜も私は試される。
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