★ 下痢をしたとの申し出

坂井茂さんは足の不自由な８２歳の男性だ。杖か車いすを使ってトイレも自分で済ませることができる。頭はおおむねしっかりしているのだが、体が不自由な分、トイレの使い方や身づくろいが十分とは言えず、酒井さんの居室からは常に便臭がする。

午前６時半、その坂井さんから「下痢したので、朝食はお粥にしてほしい」との申し出があった。念のため部屋に行ってみると、大便の付着した紙パンツと手ぬぐい、ズボンが、床に放置されていた。床のあちこちにも大便が付いている。　手早く片付けて食堂に戻る。
　入居者への朝食は７時にお出しするのだが、坂井さんに時間を取られて、もう７時を過ぎてしまっている。これからお粥を作る手間を掛けたくなかったので、申し訳ないが、他の入居者の方のお粥を坂井さんに回すことにした。おかゆを取り上げられた入居者の方へは、普通のご飯を出した。認知症が進んでいる方なのでクレームは付かないと思った。だれも知らないのをいいことに、ずるいことをした私だ。
　こんな時のために、レトルト食品のお粥が発売されているので、常備しておくと便利だと思う。